附属植物園にて野外実習
久しぶりに本業の話であるが、大学の生物学科の学生を対象に、「野外実習」という実験科目の実習を附属植物園にて行ってきた。
「野外実習」は、大学統合によって今年度から新たに担当する新カリキュラムの科目であるが、旧カリキュラムでも「野外実習」という科目はあり、担当もしていた。しかしながら、新カリキュラムでは、実習場所がこれまで行っていた場所から附属植物園に変わることになり、生物相も変化してしまう。そのため、ゼロから実習内容を考え直さないといけなくなってしまった。生物相は季節によっても変化するため、実習内容を見直すための下見は直前に行う必要がある。2日前に実習場所の下見をし、個体数が多く観察しやすいトンボと、抜け殻から種と個体数が把握できそうなセミに注目することにし、急遽、実習内容を考え直した。初年度は即興の実習内容となるため、うまくいくかわからない。人柱となる学年とも言える。
午前中は植物園内にてセミの抜け殻を採集し、園内に生息するセミの種構成を調べることにした。
十分な数の抜け殻が集まるか不安だったが、人海戦術により100以上の抜け殻を集めることができた。抜け殻から種と雌雄を同定した結果は以下のようになった。
アブラゼミ77、ミンミンゼミ25、ツクツクボウシ12、ニイニイゼミ7、ヒグラシ3、クマゼミ1
市街地にあるキャンパスでも同様な調査を行ったことがあるが、圧倒的にクマゼミが多く、その次にアブラゼミで、わずかにニイニイゼミがいる程度で、かなり種構成に違いがあることがわかった。クマゼミはもともと海岸部でよく見られたセミということもあり、アスファルト舗装された乾燥した都市部の環境には進出しやすいのではないだろうか。一方で、附属植物園は郊外に位置し、舗装されていない地面が多い環境であるため、クマゼミが進出しにくいのかもしれない。
タブノキの新芽にはアオスジアゲハが卵を産み付けていた。
地面からはオオイチョウダケと思われる大型のキノコが生えていた。
午後は水生植物を育てているプールに集まるトンボの種数を把握し、トンボの縄張り行動の観察を行った。
ショウジョウトンボ
アキアカネ
ハグロトンボ
大型のギンヤンマは常に飛行しながら縄張りを旋回し、侵入者がいれば追い出す。
中型のシオカラトンボはプールの縁にとまって、侵入者がいれば飛行して追い出す。
小型のクロイトトンボは常にスイレンの葉にとまっていて、侵入者があれば飛行して追い出すが、シオカラトンボに比べると追い出し行動の頻度は少なく、他個体が近くまで近づかないと行動はおこさない。
縄張りの広さはトンボの体サイズに比例するようである。ギンヤンマが飛んでいると、シオカラトンボはとまったままで飛ばない。飛んでしまうとギンヤンマに追いかけられてしまう。
アメンボ
最後にフィールドにおけるリスクマネジメンについて説明して終了となった。初めての附属植物園での実習であったが、即興の実習内容の割には結構興味深いことがわかった。今年度の反省点から観察方法についてしっかり詰めれば、そこそこ面白いデータが得られる実習になりそうだ。
野外実習も終わり、ワンゲル部員への沢指導も終えて、執筆の方も一段落し、ようやく自転車操業状態から解放されそうだ。
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