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October 19, 2020

書籍の紹介「ワンダーフォーゲル活動のあゆみ−学生登山の主役たち」

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城島紀夫 著「ワンダーフォーゲル活動のあゆみ−学生登山の主役たち
2015年8月8日発行
古今書院 ISBN: 978-4-7722-9011-1

こんな本が出版されていたとは、最近まで知らなかった。私は1997年からある大学のワンダーフォーゲル部の顧問をしているが、この本は1995年に出版されているので、顧問就任時に読んでおきたかったものである。読んでいたならば、部員の指導に役立てられたことも多かったにちがいない。

この本は、我が国で初めての日本のワンダーフォーゲルの歴史をまとめたものである。日本全国の大学ワンダーフォーゲル部の部誌、部報、周年記念誌、OB会報、今はなくなった連盟機関誌などの資料の収集は決して簡単ではなかっただろう。必要であれば、各大学のワンダーフォーゲル部OBOGにも面会して資料を集めたようだ。巻末にある表2は大学ワンダーフォーゲル部の創部状況を調べたものだが、この資料の歴史的価値は高く、著者も「この書のいのち」と強調している。

この本のタイトルが「ワンダーフォーゲル部」でなく、「ワンダーフォーゲル」なのは、大学ワンダーフォーゲル部だけでなく、社会人のワンダーフォーゲル活動についても触れているからだ。そもそも日本で「ワンダーフォーゲル」という言葉が流行したのは、戦前に活動していた社会人中心の多数の歩行運動団体のうちの1つがドイツ語を真似して名乗ったものが人気を呼んだからである。それが奨健会ワンダーフォーゲル部であった。「ワンダーフォーゲル」はドイツ語で「渡り鳥」の意味で,ドイツで始まった青年運動に起源すると一般に信じられているが、実際は、活動内容の移入や模倣ではなく、団体の名前にドイツ語を借りただけの「借名」であったようだ。当時のドイツでは、ワンダーフォーゲルと名乗っていた青年運動はすべて解散させられていた。当時の日本は、軍国主義国家としての国民の体力増強を目的に、歩行運動を推奨していたのだ。おそらくこの事実を現在の現役の部員達は知る由もないだろう。この奨健会ワンダーフォーゲル部が大学のワンダーフォーゲル部の創部に関わっている。

大学ワンダーフォーゲル部の最初の発足は戦前ではあるが、全国の大学にワンダーフォーゲル部の創設が広まったのは戦後のことであった。戦後最初の約10年間に関東の大学で創部が広がったが、それは主に登山と旅の同行者が起こしたものである。遅れて創部した関西などの大学ではサイクリングやキャンプの同行者が始めた。そして戦後の学生登山は、山岳部が衰退して、ワンダーフォーゲル部が主流の時代となった。サイクリングやキャンプが主体だった部も、次第に登山が主体となっていった。

ワンダーフォーゲル部の活動は、山岳部との違いを出すために、レクレーション登山が中心であった。そのレクレーション登山を通じて拡大し発展する過程において、山小屋の建設やOB会の結成がなされた。山小屋といえば山岳部専用のものとなっていた時代としては、ワンダーフォーゲル部専用の山小屋建設は画期的な出来事であった。当時の山岳部では女子学生の入部を拒否していたが、登山を愛好したい女子部員たちは進んでワンダーフォーゲル部に入部した。どこの大学にも1960〜70年あたりに大量部員時代があったようだ。そのような時代には、山岳部の関係者から、ドイツから移入された第2山岳部、亜流山岳部、などなどと誹謗中傷の言葉が流布されたこともあったそうだ。

その後、活動多様化の時代となり、ワンダーフォーゲル部や山岳部の活動に変化が見られるようになる。学校間の活動内容の差異が、年々拡大の一途をたどる。伝統的に年間計画を伝承する部と、設立後の歴史が浅いために年間活動計画が決まらない部との差異は甚だしくなっている。これは私が顧問をしている部も同様だが、無目標化や共同体意識の希薄さが課題となっている。大学の課外活動の意義や位置づけが曖昧になっているのだ。大人もそうだが、近年、個人志向と現在志向が強くなっている。著者の言葉であるが、「社会や集団というものの意義を知ろうとしなければ、人間は幼稚化に向かう」だろう。また、「未来の目標に向かって長期的な計画を立てて、着実に歩みを続けることや、将来の望ましい状況を実現させるために現在を犠牲することなどを避ける」ならば、未来の発展もないだろう。

そのような状況で、活躍が期待されているのは、OBOG会である。監督とコーチをOBOG会が選任して、現役部員の技術指導をしているところもある。現役部員は毎年入れ替わっていく。現役部員だけで問題を解決することは難しい。OBOG会の重要性はますます大きくなってくるところだが、そのOBOG会の活動に若手会員が参加してくれないことが問題となっているところも多い。それはまさに負の連鎖で、現役時代に目標をもつことや共同体意識の重要性を学んでいないと、OBOG会の活動にも意義を見いだせないだろう。その負の連鎖を断ち切るためには、OBOGと現役部員の両方の意識の変化が必要かもしれない。この本はそれによい契機となるだろう。ワンダーフォーゲル部OBOGだけでなく、現役部員にもぜひ読んでもらいたい本である。

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現在、この書籍はAmazonでは品切れだが、他のネット書店ではまだ購入可能のようだ。出版社である古今書院の紹介ページには、それらのネット書店にリンクが貼られている。

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Comments

面白そうな本ですね。
ワンゲル部と山岳部の違い、前から気になっていました。
金沢市の図書館にあったので、今度読んでみます。

Posted by: cima | October 19, 2020 07:25 PM

cimaさん、ブログが最近更新されていませんが、お元気ですか?
ワンゲル部発足時は1種目1団体の時代だったので、山岳部との違いを出すことが重要だったようです。

Posted by: マメゾウムシ | October 20, 2020 02:40 PM

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